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前橋地方裁判所 昭和45年(ワ)256号 判決 1971年4月30日

原告

市川平二

ほか三名

被告

千代田火災海上保険株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

(一)  原告

被告は原告市川平二に対し金六八万円、同市川サダエに対し金六六万円、同並木ヒロ子に対し金六六万円、同石川泰三に対し金四〇〇万円、およびこれに対する昭和四五年九月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

(二)  被告

主文同旨。

二、当事者の主張

(一)  請求原因

1  訴外新井一郎は昭和四四年一月七日午前九時ころ、埼玉県入間郡坂戸町大字上吉田二二九番地先県道を入間市方面から熊谷市方面に向け大型貨物自動車(群一せ七五七六号)(以下被告車という)を運転し、進行中、折から同所を対面進行してきた訴外市川平三郎(訴外市川千代子同乗)運転の普通乗用自動車(群五ほ二五四四号)(以下原告車という)の右前部に自車右前部を衝突せしめ、その衝撃により、右市川平三郎を同日午前九時過ぎ頭蓋骨頸椎骨折で、右市川千代子を同日午後〇時五五分脳挫傷でそれぞれ死亡せしめた。

2  右訴外新井一郎はその所有する本件被告車を自己のため運行に供用中本件事故を起した。

3  訴外鈴木勝重は被告会社との間で本件被告車について自動車損害賠償保障法で定める自動車損害賠償責任保険契約を締結していた。

4  本件事故によつて原告等は次のような損害を受けた。

(1) 財産的損害

(イ) 得べかりし利益

右亡市川平三郎は本件事故当時、その年収は金二三一万六、〇〇〇円で、これから生活費金六〇万円を控除すると純益は金約一七〇万円になる。右市川平三郎は当時六二才の健康体であつたから平均余命は一三・八二年あり少くとも六・九年間は稼動可能である。するとその間の全純益は一、一七三万円に達するが、ホフマン式計算法により中間利息を控除すれば、右六・九年間の純益の本件事故当時の価格は金九八八万円となる。従つて右市川平三郎は本件事故により、右金額に相当する得べかりし利益を失い、同額の損害をこうむつた。

(ロ) 雑費、葬儀費等

坂戸病院死体検案書 八、〇〇〇円

坂戸中央病院加療費 三万一、八二四円

葬儀費用 六万四、五四〇円

読経料等 四万八、〇〇〇円

火葬代 二、四〇〇円

(2) 精神的損害

(イ) 右亡市川平三郎は会社経営をし、一家の中心であつたためこの本件事故により突然死去したことは原告等にとつてその受けた精神的苦痛は大きく、この慰藉料として金四〇〇万円を相当とする。

(ロ) 右亡市川千代子は原告石川泰三の子であるところ、親として子に本件事故によつて先立たれたことの精神的苦痛は甚大であり、その慰藉料として金四〇〇万円を相当とする。

5  右のとおり訴外亡市川平三郎、同千代子の本件事故による損害はいづれも金三〇〇万円を越えるものであるが、強制保険の限度額である右金額を、原告市川平二、同市川サダエ、同並木ヒロ子は右市川平三郎の子であり相続人であるから、同人の妻千代子の三分の一を除いた三分の二の二〇〇万円をそれぞれ三分の一宛、原告石川泰三は訴外市川千代子の親である相続人であるから、右訴外市川平三郎に関する千代子の相続分である一〇〇万円と千代子の死亡についての三〇〇万円との合計四〇〇万円をそれぞれ自動車損害賠償保障法一六条一項により、請求するほか、これに対する昭和四五年九月九日から支払済みまで年五分の割合の遅延損害金の支払を求める。

(二)  請求原因に対する認否

1  請求原因1項2項3項は認める。

2  請求原因5項のうち原告等が相続人であることは認める。

(三)  抗弁

1  本件事故現場の道路は幅員約六メートルの二車線で訴外亡市川平三郎運転の原告車の進行方向は下り坂であり、しかも左に急カーブしている。したがつて右亡市川平三郎は減速して適切なハンドル操作すべき注意義務があるのに、時速約六〇キロメートルのスピードを減速することなく進行してきてカーブを曲り切れず道路中央線を超えて対向車の進路に進入したため本件事故が発生したもので右市川平三郎の過失によるものである。

2  訴外新井一郎は中央線を超え自車の進路へ進入してきた訴外市川平三郎運転の原告車を認めるや、直ちに急ブレーキをかけ、かつハンドルを左に切つて原告車との衝突を避ける行動を取つた。自動車運転者としては、対向車が道路中央線を超えないことを信頼して運行を継続すれば足り、中央線を超えてくることまで予見して常にこれに対処できる方法をとりながら進行しなければならないものではないから右訴外新井一郎がとつた処置で十分であり、右新井には過失はない。

3  被告車の構造上の欠陥又は機能障害もなかつた。

(四)  抗弁に対する認否

1  抗弁事実第一項は認める。

2  抗弁事実第二項中ブレーキをかけたことは認めるがその余の事実は否認。

(五)  証拠〔略〕

理由

一、訴外新井一郎が昭和四四年一月七日午前九時ころ、埼玉県入間郡坂戸町大字上吉田二二九番地先県道を入間方面から熊谷方面に向け大型貨物自動車(群せ七五七六号)を運転し進行中、折から同所を対面進行してきた訴外市川千代子同乗の訴外市川平三郎運転の普通乗用自動車と衝突し、右市川千代子および市川平三郎を死亡させたこと、右新井は右自動車を所有し、当時自己のために運行の用に供していたこと、訴外鈴木勝重は右自動車について被告会社との間で自動車損害賠償保障法で定める自動車損害賠償責任保険契約を締結していたことは当事者間に争いがない。

二、原告等は右事故につき、被告会社に対し、自動車損害賠償保障法で定める自動車損害賠償責任保険契約による損害賠償の被害者請求をするのに対して、被告会社は右新井の無過失、右市川平三郎の過失および被告車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを主張し免責の抗弁を言うのでこの点について検討する。

三、〔証拠略〕を総合すれば、本件現場は入間方面から熊谷方面に通ずる幅員五・四メートルの県道熊谷入間線道路の上にあり、歩車道の区別がなく、入間方面に向つてやや下り坂で、しかも訴外市川平三郎の進行方向から見て左にゆるやかにカーブしている。

訴外市川平三郎は、熊谷方面から入間方面に向け時速約六〇キロメートルで原告車を運転し、本件現場に差しかかつた際、速度を出しすぎていたため、左カーブを曲りきれず、道路中央線を超えて対向車の進路に大きく進入した。

折りしも訴外新井一郎は被告車を運転し、入間方面から熊谷方面に向け時速約五〇キロメートルで進行し本件現場に差しかかつたが、進路直前に中央線を超えて自己の進路に進入して進行してくる対向車である原告車を認め、直ちに道路左端いつぱいにハンドルを切ると共に急制動をかけたが及ばず、本件事故が発生した。

被告車には構造上の欠陥、機能の障害はない。

四、以上の認定事実から考えるに訴外市川平三郎には、道路中央線を超え、対向車の進路に進入することがないように予め減速して進行すべき義務があるのに、これを怠り漫然時速約六〇キロメートルで進行した過失があると言わなければならず、

他方訴外新井一郎としては法令で定める制限速度内で被告車を運転中原告車が前記のように道路中央線を大きく超えて自己の進路を遮つて不意に進入してきたのであり、対向車が法令に違反して道路中央線を超えて自己の進路に進入することを予想して、これに対処することまで同人に要求することはできない。従つて同人は急制動をかけ、ハンドルを道路左端いつぱいに切つたのであるからこれで充分その注意義務を果していたのであり過失はないと判断する。

また本件被告車には構造上の欠陥、又は機能上の障害はなかつたことは前記のとおりである。

そうすると本件事故は右新井の過失、もしくは被告車の構造上の欠陥または機能上の障害によつて生じたものではなく、かえつて右市川平三郎の一方的過失によつて生じたものであることが認められるので原告等の本請求は棄却すべく、訴訟費用は民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 植村秀三)

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